漫才が大好きだ。
2人の芸人が人を笑わせるため、センターマイクを挟んで口角泡を飛ばし合う。緻密に練られた漫才。アドリブでゴールの見えない漫才、、幼い頃からとにかくたくさんの漫才に笑わされてきた。
2人の生き様が見えるところが好きだ。長年行うことで次第に2人の人柄やキャラクターのようなものが乗っかっていき、漫才にも魂が宿る。そのコンビにしかできない漫才が出来上がっていく。
かまいたちが分かりやすい。ボケの山内がUSJとUFJを言い間違えた後、言い間違えたのは相方の濱家だ、と主張するあの漫才はかまいたちで無ければ成し得ない
「もし俺が謝ってこられてきてたとしたら絶対に認められてたと思うか?」
これほんまになんやねん、大発明やろ。
さて本項ではそんな漫才のカタチと歴史について自分なりに(自分のために)考察をしたい。
2001年から2010年(以下第一期)までと、2015年(以下第二期)から毎年行われている、漫才の一番面白いコンビを決める「M-1グランプリ」の歴代出場者の漫才を例に挙げ、その笑いのカタチと歴史について考える。
漫才のルーツは「しゃべくり漫才」である。この漫才の形を取るのは関西芸人に多い。それは、漫才という笑いのルーツが関西にあるからである。また、初代M-1チャンピオンに輝いた中川家・礼二は
「喫茶店での会話の延長が漫才になるのが理想」
と語っており、関西人の日常会話をベースとして漫才が成り立ちうることが分かる。関西人の、まさにお家芸である。
「しゃべくり漫才」をベースに、M-1グランプリでこれまでにチャンピオンになったのは、中川家、ますだおかだ、ブラックマヨネーズ、銀シャリ、ミルクボーイなどである。ナイツやオズワルド、メイプル超合金など関東出身のしゃべくり漫才師も存在する。
ここではブラックマヨネーズの「ボーリング」のネタを例に、関西芸人のしゃべくり漫才の構造について考察する。
吉田「僕ら二人とも独身なんですけどもね、やっぱり今のうちからね、運命の人と会った場合、最初のデートどこへ連れていくか、これが大事やと思うねんね」
小杉「最初のデート悩むからね」
吉田「どういうとこ連れて行ったらええんかな」
小杉「ボーリングとか意外とええんちゃう」
吉田「あ、ボーリングな」
小杉「二人でやったらばーっと楽しく盛り上がって仲良くなるやんか」
吉田「でもなぁ」
小杉「なんやねん」
吉田「ボーリングってなんか汚いイメージあるやろ」
小杉「汚いってどういうこと」
吉田「いや例えば靴はみんなの使いまわしやし、ボーリングの球も誰が指入れたんや分からん穴に入れなあかんやん」
小杉「そんな風に考えたら汚いあかんで、そらちゃんと洗てくれてるよ」
吉田「んで男が選ぶ球なんて大概14ぐらいのもんやろ」
小杉「んまぁ14ポンドくらいね」
吉田「ほな俺が赤紫14持ったら、彼女が前の彼氏の事思い出して泣きよったらどうしようかなと思うねんな」
小杉「ほな13選んだらええがな、別にそれやったら被れへんやんけ」
吉田「それやったら、俺前の男より力ないみたいやんけ」
このように日常会話の形式で漫才が展開していく。
ブラックマヨネーズの漫才の面白みは吉田が普通の人が気にしないようなことまで気にして、その懸念に対して小杉が次々に異なる提案をしていく。「でもなぁ」に続けて吉田がその提案に対しての不安を言う。すると次第に小杉の提案が非常識的になっていくというところである。
コントに入らず、キャラで笑いを取るのでもなく、あくまで二人の会話の内容で笑いを取る。しかしこういう漫才の話しぶりから彼らのキャラが滲み出るのだ。関西弁は言葉が強く、感情を乗せやすいとされている。そのため、吉田のような小さな悩みが真剣に悩んでいるように感じられるのだ。
次に関東芸人によるしゃべくり漫才をナイツを例に挙げ、考察する。
塙「最近ね、子供の人気ってすごく大事だなあと思いまして」
土屋「あ、子供人気から火着く芸人さんいますからね。」
塙「やっぱ子どもが何に興味持っているかっていうのをですね」
土屋「そういうのね調べたほうがいいですよ」
塙「ちょっと昨日インターネットサイトのヤホーで調べてきまして」
土屋「ヤフーね。ヤフーが良いですよ調べるときはね」
塙「子どもはねアニメが好きだってことが分かったんですよ」
土屋「それ調べなきゃ分からないことですか」
ナイツの漫才は「ヤホー漫才」と呼ばれ、ボケの塙が言い間違えをし、ツッコミの土屋がそれを正していくというスタイルである。
標準語は言葉に感情が乗りにくく、おだやかな印象を受け、関西弁の漫才から感じる熱やスピード感を感じにくい。そこをナイツはうまく利用している。塙が淡々と間違えていき、土屋が優しくそれを正すという面白みがあるのだ。コントに入らないため、しゃべくり漫才ではあるが、塙はお客さんの方しか向かず、二人の対話という要素は薄い。
ここまでにみたブラックマヨネーズやナイツのように、近年に至るまで漫才はボケで笑いを起こし、ツッコミはそのボケに対するストレートな返しであることが多かった。初代王者中川家は特にその色が濃い。ボケのお兄ちゃん・剛は弱弱しく、"アホ"ということが礼二のツッコミによって強調され、剛が何かをするたびに笑いが起こっていた。
それが分かるエピソードとして次のようなものがある。M-1に出場する前からテレビ露出のあった彼らは、2001年のM-1で漫才が始まる前、ラサール石井から「中川家の兄ちゃん(トップバッターのプレッシャーで)死んでまうんちゃいますか」といじられ、会場が湧いていたことから、剛が面白い存在として浸透していることが伺える。
礼二まっっっる。
しかし、2018年のM-1チャンピオンとなったボケのせいやとツッコミの粗品からなる霜降り明星がその決勝ファーストラウンドの採点後、オール巨人から以下のような評価を受けていた。
『最近の漫才、近代漫才というか、何年か前からツッコミの言葉の多さ、ボキャブラリーって言うんですか。粗品君がそれを完全にやってる。せいやがボケて、粗品がツッコむとき待ってるもん。次何言うんかな。みんなが思ってることよりちょっと上のこと言うからどんどんどんどんハマっていって最初から最後までずっと爆笑でしたね。』
霜降り明星の漫才はせいやが舞台上全体を使ってコミカルな動きでボケるのに対し、粗品はあくまでセンターマイクの前に立ち、お客さんに向けて体言止めの言葉で短めに必殺技のようにツッコむというスタイルである。これは従来の、ボケで笑いを取り、ツッコミは添えられたものと
いうものではなく、粗品のツッコミがあって初めてせいやのボケがボケとなりうるのだ。粗品のツッコミはせいやのボケを説明する役割を担っている。
↓『おっきい山とか見えたらテンション上がるんですよね〜』
↓『キッズダンサーの笑顔!!』
霜降り明星はしゃべくり漫才では無く、コント漫才の形式を取るが、漫才のウケの比率で、ツッコミがボケより高くなっていることは注目すべき点である。
2005年チャンピオンのブラックマヨネーズと2008年から3年連続決勝進出したナイツから、2018年の霜降り明星の間にしゃべくり漫才コンビとして優勝を果たした(2016年)銀シャリの漫才にもツッコミ優勢の片鱗がみられる。彼らの漫才「うんちく」を例に挙げたい。
鰻「あんなぁ、最近オレあの、雑学とか、『うんちくん』にハマってねんけど」
橋本「『うんちくん』ってなんやねんお前。"うんちく" やろそれ言うんやったら。うんちくん、なんやその謎のゆるキャラは。うんちくんでゆるキャラはもう下痢やから、それは。雑学とか"うんちく"ね。」
この部分はこの漫才での掴みの部分であるが、鰻のボケでも笑いを起こし、それの説明を含んだ橋本のツッコミでさらにウケが来る。セリフの比率は鰻:橋本で3:7程度である。橋本が過剰なほどの例えを交えたツッコミをしていくところがこのコンビの面白さである。
前述のオール巨人のコメントにあった「最近の漫才、近代漫才というか、何年か前からツッコミの言葉の多さ、ボキャブラリーって言うんですか。」というのがまさに銀シャリの漫才でも見られる。ツッコミ橋本のボキャブラリーで笑いを取っているのだ。
こうしたツッコミ改革にはお笑いコンビ千鳥の存在も大きいように思う。ボケの大悟とツッコミのノブからなる岡山県出身の彼らは現在冠番組を多く抱える売れっ子芸人だ。彼らはM-1が開催されなかった2011年から2014年の間にM-1の後継プロジェクトとして開催されたTHE MANZAIで好成績を収めていた。
大『「きすい館」のはくべいでございます。
それではご予約の方確認させていただいます。智弁和歌山高校、野球部、80名様。』
ノ『ちがうちがう!!』
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彼らの漫才の特徴は、大悟のぶっ飛んだボケにノブが方言でツッコむというものだ。ノブの方言ツッコミはフレーズも短く、インパクトが強い。そして豊富なボキャブラリーから繰り出される絶妙な言い回しが面白い。彼のツッコミはボケを活かして笑いを取る。彼らがテレビで広く活躍するようになったことでツッコミへの比重が高まったのだと思う。
ここまでみてきたように、初代王者中川家、ブラックマヨネーズ、ナイツが登場した第一期と銀シャリや霜降り明星が登場した第二期の間で漫才に変貌(ツッコミ改革)があったと考えられる。それまでお客さんに考えさせる、負担になるようなネタはよくないネタとされ、分かりやすいボケで笑いを取っていたしゃべくり漫才が、ツッコミのボキャブラリーの豊富さでもって笑いを取るスタイルへと変わっている。その間にはノブや銀シャリ・橋本などツッコミがウケ主を担う人が現れた。そうしたが漫才の新たなカタチを生み出したのだ。
以上が私なりの漫才考察である。
今年も年末にはM-1グランプリ2020の決勝予定されている。みなさんもお気に入りの漫才師を見つけて応援してみては??
僕はオズワルド・からし蓮根・コウテイに期待してます!!ミッフィーちゃん。
〈参考文献〉
・『言い訳:関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』中村計・塙宣之著 集英社新書2019年8月
・『ユウキロックのエンタメウェビナー』ユウキロック YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCnwkLZwrwemnWHzAXOIAADQ 2020年10・11時点