もっとわすれる!

面白かったテレビ・YouTubeについて書きます note▷ https://note.com/131_taka

二つの映画

スティーヴン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』と松居大悟監督の『ちょっと思い出しただけ』を見た。同日公開で、同じくらい楽しみだったからどちらから先に見ようかかなり悩んだけれど、この順番でよかったなと思う。

 

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エストサイドストーリー。僕は映画を普段からたくさん観るわけじゃなく、これまでに多くを観てきたわけでもないから、スピールバーグだし、ミュージカル観たことないし、ワクワクしそう!で観た。ずばり、かなりの衝撃だった。エンターテイメントとしての映画の真髄のような、決してそれが過言ではないほどの映像美、カメラワーク、音響、衣装、(セットとも思えぬような)壮大でド派手なセット、そのスケール感にハリウッドやな〜!となった。つまり、めっちゃ楽しい〜!となった。注目作とあってやや前気味の席取りだったことも功を奏した。視野に入りきらない位置で見るバカでかいスクリーンに、簡単に引き込まれることができたから。

ほとんど初と言っていいミュージカル映画は、それなりに慣れも必要らしく思われた。あのフラッシュモブ感に対する気恥ずかしさを終始感ぜずにはいられない。M-1グランプリ2015のかまいたち、敗者復活戦のネタ。山内がフラッシュモブに対してキレてた、あの感覚がある。「お前も踊んのかい!」「お前は違うんかい!」のやつ。濱家「お前も楽しんでるやん」

 

主演二人の恋の始まり、トゥナイトの素敵さ、素敵さとしか言いようのないあのシーンには胸を打たれた。ようはミュージカルは、自分がどれだけその映画に溶け込めているかの具合が分かりやすいジャンルなのかもしれない。

 


ストーリーを知らなかったので、展開にも驚かされた。ゆるされぬ恋、というありきたりなテーマかと思ったらそこに要素が乗っかるわ&絡まるわで味わったことのない部分の感情がかなり刺激された。鑑賞後は、内容に関するどんな言葉も空虚に感じられるような無力感と、それでも「すごいものを観た!」とただただ誰かに言いたくなるような気持ちで満たされた。

 

 

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松居大悟監督の『ちょっと思い出しただけ』を観ようと思ったのは確か年末ごろ。秋頃に見た同じく伊藤沙莉主演の映画、『ボクたちはみんな大人になれなかった』に僕は大感激したのだが、伊藤沙莉という俳優の起用と、恋人の時間を巻き戻すという設定の静かな連関に心惹かれて観ようと思うに至った。(と記憶する。)

 


映画は、素晴らしく良かった。やや尻すぼみの感はあったが、日常のおかしみをぼこっと浮き彫りにせず、同じ画角で捉え、映し、後は観た人に委ねようという気概と観客への信頼感が僕に作品の余裕を感じさせた。

 


日常のおかしみを「ここおかしくね?」と露骨にやってしまう映画が多いように思う。(主に邦画)そういう映画は笑かしにきてるな〜、となって冷めてしまう。だけどこの映画はそうではなかった。同じシーンをとってもある人にはおセンチに、ある人にはエモく、そしてまたある人にはただただ滑稽に感じられるような映画だった。(少なくとも僕と僕の周りに座っていたおじさんたちにとっては)僕が些かおセンチになりたいシーンで、隣と斜め前のおじさんは「ははっ」と疲れた笑い声を発した。映画は映画を観る背景や環境によって十二分に左右されるのだなー、と久しぶりに人の詰まった映画館で思った。

 


特筆すべきは屋敷!サブスクを待たず、劇場で観ようと思わせたのはニューヨーク・屋敷の出演だ。松居大悟監督と親交があるらしく、ニューヨークのYouTubeにも監督が二度出演している。そのYouTubeの動画内で屋敷が「大悟が納得いく映像を撮るためだけに全員が動いている」「映画って全てのカットに意味があって全てのカットにこだわりがあるよね、本当にお気に入りの映を連写して撮ってるみたいな感覚やな」と言っていて、これが心に深く残っている。正直この言葉で映画を観る視点がまるっと変わった。これまでの僕は映画を観ても監督に着眼して作品の連関や特徴を考えたりしてこなかったからだ。その業界の人ではなくて、芸人の言葉で動かされてしまうのは僕のツネである!(2700・ツネの言葉では多分動かされないけど)

 


屋敷の出てきたシーンでは、決して演技をしていない。芸人・ニューヨーク屋敷ではなく、人間・屋敷裕政が出てきてけらけら笑ってしまった。映画を見てこんなに笑ったのははじめてだ。めちゃくちゃおもろい。偉そうな言葉使ってだらだら書いてるのがアホらしくなるほど、ばりおもろかった。「そっちのコンパどんな感じっすか?」おいおい屋敷!僕らがイメージしている、こうであって欲しいと望む屋敷がそのまま出てきたから、監督と屋敷は仲がめちゃくちゃ良いんだと思った。

 

クリープハイプのナイトオンザプラネット、これを聞き始めたのも屋敷きっかけ。あるため息の出るほど退屈な夜にテレビをつけると著名人が新アルバムを出したクリープハイプの魅力について語る!的な番組がやっていた。その中に登場した屋敷は尾崎世界観に「忙しくて聞けてないな」と言わせるテキトーな感じ、だけどそれがええのよね。この曲が夜を流すタクシードライバーにピタリとハマる。

 


映画を観ていてこのシーン好きだわ、とゾクゾクすることがたまにある。これは映画に限らず、本を読んでいてこの一節、だったり、野球のピッチングフォームを見て、このピッチャー、となったりするゾクゾク。それがこの映画にもあった。そういうゾクゾクはもう一度観たいと思わせてくれるし、なによりも僕とその作品を心に繋ぎ止めてくれる。

 


どちらの映画もすんばらしかったです。