もっとわすれる!

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並列という暴力

月と六ペンス、想像力と数百円。僕たちは「と」というたった一音の助詞のパワーを度々知る。想像の範疇の遥か向こう側から大気圏に突入して衝突する二つの言葉。いや、そこには衝突すら無い。どこまでも交わらない二つの言葉が平衡を保ったままである。人間の作為によって偶然その場に居合わされた運命。並列という暴力。二つの言葉の並列にハッとさせられ、その二つの間の関連性を見出そうと試みるが結局はただ言葉が音もなくそこに並べられた現象に心を奪われる他無いことに思い当たるのだ。

 

以下は僕が生活の片隅で見つけた文字の配列と僕の瑣末な解説を。

 

ハーゲンダッツといかの燻製』

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まず両者は食べ物という点で共通している。そして両者生命に直接関わりのない嗜好品である。ハーゲンダッツは食後のひとときに、いかの燻製は酒のあてにでもするのだろう。この書き手はハーゲンダッツの種類の乏しさに意見を寄せている。なんたる贅沢。なんたる私利私欲っぷり。共通点はあれど、時を同じくして食卓に並ばない二つの言葉が書き手像をマダム或いはビール腹たらしめる。

 

『ジャズと御履物』

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文字が、スウィングしている。バスドラムの低くて重たい響きが我々の足元から伝わってくる。そして下駄の歯が地面に当たる軽やかな響きが曲を前へ前へと運ぶ推進力を持つイメージを想起させる。文字として、御履物は堅い。御が漢字だ。履は旧字だろうか。ひらがながなく、どの漢字もシルエットは四角に近しい。ジャズの文字はシとスの曲線が右上から左下へのダイナミズムを描いて、軽やかでありながらまとまりのあるシャープな印象。そして見慣れない漢字の並びとジャズという響きは古さを感じさせる。それはレコードに針が落ち、部屋中にぱりぱりという音が響くような心地の良い古さだ。かっこいい。