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粒だちのよい思い出

粒だちのよい旅の思い出のお話

 

旅程の一番最後、函館駅最後の15分について。最終日は朝から金森赤レンガ倉庫や、絶景が見晴らせる八幡坂を訪れてすっかりくたくたになったので、バスの出発時間まで喫茶店に入ることにした。函館駅から函館空港までは直通のバスが出ている。駅近くの喫茶店をささっと調べて、一番近くの喫茶店に入った。そこに滞在したのは15分ほどであったが、その時間は1時間にも半日にも思えたし、このままこの時間がずーっと続けばいいのにな、という気持ちにさえなった。店はエプロン姿のお婆さんが一人で営んでいた。店内やや暗く、床は花柄フロアタイル、その黄ばみもなるほど並大抵でない経年を知らせる趣で、腰掛けた椅子から見えるコーヒーチケットの販促ポスターにあるのは「お徳」の文字。雪国で薫る薪ストーブ特有のなつかしさが充満して、古い日本家屋でどことなく吹いてくる隙間風のような冷たさもブレンドコーヒーのお膳立て。微かにかかるシャンソンと、店員を交えたご近所の老婦人3人組の会話は交わることなくただ共存して、言葉のなまりが強いせいか、異国にいるような浮ついた気持ち。時折訪れるのは身震いするほどのしんとした静寂に、コーヒーの湯気とタバコの煙が揺蕩うだけの時間。異国の言葉で話されるエビチリの調理法、ちぐはぐで交わらない全てが、最近見たジム・ジャームッシュのコーヒーアンドシガレッツを思い出させ、そうした一連に考えを巡らせるためだけにぽつんと狭い部屋で独りにされたような心細い気持ちになる。コーヒーは3人の会話の中で作られている気配もなく、バスの時間の迫る焦燥が孤独感を打ち消していく。突然かちかちとカップアンドソーサーが静寂に色を付けながらブレンドコーヒーは現れる。コーヒーは5分で飲み干し急いで店を出たけれど、喫茶店での15分は超常現象を見た時に感じる、自分の力の及ばぬものに対する畏れの気持ちを胸に刻んだ。